前世紀シデンゲリオン,  市電馬鹿話

前世紀シデンゲリオン/時計台の鐘がなる

20世紀末、札幌市は謎の侵略者により瓦礫の荒野と化し、すべての都市機能は地下空間の第二札幌市に移し替えられた。地上には、かつてここにあった美しい街の姿をとどめるものは何もなかった。ただ、市営電車の線路を除いて。
その中で、札幌市交通資料館に展示されていた市電車両は、敵の波動を浴びて次々と高武装公共交通車両「シデンゲリオン」に姿を変えていった。
シデンゲリオンのパイロットとして抜擢されたのは、若干14歳の中島公(なかじまこう)少年。彼ははじめて訪れた車両基地で、シデンゲリオンと、副パイロットのオードリー・コーウェンと出会う。(前回までのあらすじ)

「シデンゲリオンは敵の波動を浴びて兵器に変わったんですね、長官。あらすじにはありますが、本編でなんの説明もなかったので」
「そういうこともある。この世界では常識だということだ。それと私は長官ではない、札幌市交通局局長の狸小路徹(たぬきこうじとおる)だ」
「するとここは交通局の施設ですか。てっきり防衛関係だと思っていました」
「市は独自の軍事力を持てない。これは市民憲章で決まっているのだよ」

「市民憲章は学校で習いました。『わたしたちは、時計台の鐘がなる札幌の市民です』というあれですね。でも、その時計台の鐘も今は...」
「あら、鐘は無事よ、建物は残念だったけど。時報のたびに聞いてるじゃないの」
「あれは録音だろ、ええっと、オードリーさん」
「オードリーでいいわ、公君。ラジオの時報の鐘の音は、生なのよ。毎回マイクで拾ってるわ。まだ時計台があった頃からの伝統ね」
「古い機械でタイミングを合わせるのは大変じゃないの」
「とてもね。時計台の中身は建物の3階分を占める巨大な振り子時計よ。アメリカのハワード社製で、曽祖父のアンドリュー・コーウェンも、設置を手伝ったの。時計台でも、機械が届いてから元々の建物に収まらないことがわかって、玄関から時計塔部分まで大増築したのよ。第二札幌市では、集合ダクトの垂直部に組み込むしかなかったわ。」
「知らなかったけど、随分大きいんだね」
「日本一よ。ちなみに二番目は立命館大学だけど、あそこの機械部分は文字盤の裏側についた木の箱1個分ね」
「時計台はアメリカ製か」
「鐘は日本製だけどね。工部省赤羽工作分室というところで作ってるわ。鐘だけハワード社製じゃないのは、何か別にもトラブルがあったのかもしれないわね」
「時計台にも、けっこう試練があったんだね」
「打たれ強いわね、鐘だけに」

(つづく)



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