前世紀シデンゲリオン,  市電馬鹿話

前世紀シデンゲリオン/敵の名は

20世紀末、札幌市は謎の侵略者により瓦礫の荒野と化し、すべての都市機能は地下の第二札幌市に移された。地上には、かつての美しい街の姿をとどめるものは何もなく、ただ、市営電車の線路だけが残った。その中で、札幌市交通資料館に展示されていた市電車両は、敵の波動を浴びて次々と高武装公共交通車両「シデンゲリオン」に姿を変えていった。シデンゲリオンのパイロットとして抜擢されたのは、若干14歳の中島公(なかじまこう)少年。彼は副パイロットのオードリー・コーウェンと出会い、時計台の鐘が今も健在なことを知らされる。(前回までのあらすじ)

「こうしてみると、シデンゲリオンは市電の車両と変わりませんね」
「外観はM100型と同じだ。操縦方法もほぼ同じだが、強度やスピードは桁違いだね。その他にも、我々も知らない機能が隠されているようだ」
「敵の波動で変貌したから、詳しいことがわかってないんですね」
「ねえ、敵っていうけれど、敵って何なの?私はシデンゲリオンに乗るように言われているけれど、敵の名前も聞いてないわ」
「敵は『敵性異形体』と呼ばれている」
「お役所用語じゃないの。英語ならHostility Variantかあ」
「オードリーは本当に日本人なんだね。Variantは形容詞だよ」
「わ、悪かったわね、英語がヘタで!英語なんてF**k Y*Uよ!」
「それを言ったからと言って、アメリカ人ぽくなるわけじゃないよ」
「ともかく通称などは、次の市議会で決まるだろう」
「つまり考えてないんですね」
「議会がね。しかたないだろう、最初から『敵はスペクトラーズだ』とか、分かってるほうがおかしいぞ」

「名前だけじゃなく、札幌がこれだけの被害を受けているというのに、敵の姿もわからないなんて」
「ぼくは見たことがありますよ」
「まさか、極秘事項だぞ!」
「電車や鉄道の車両を、命をかけて撮影しようとする連中がいるんです。私有地に入り込んだり、線路上で待ち構えたり、やることは非常識そのもので、彼らはどんなに禁じられても地上に出て、撮影します。そして鉄道専門雑誌などに投稿するんです」
「今も公開されてるのか!」
「ええ、例えばですね、ええと、こんなふうに…」

「...ポラリスか」
「え、知ってるんですか?市電のようにも見えますけれど、普通の市電に比べると未来的と言うか、だいぶ違いますよ」
「こうなったら話してもいいだろう。これは21世紀に札幌市が投入を計画している新型車両で、A1200形通称『ポラリス』だ。まだプラン段階で、GKインダストリアルデザイン研究所からスケッチだけが来ている状況なのだが」
「GK、というとあの榮久庵憲司さんですか!」
「エクアン?日本人なの?」
「インダストリアルデザインの神様だよ。オードリーも、キッコーマンの醤油差しボトルをしってるだろう」
「我が家でも昔から使ってるわ。一人暮らしを始めたときも、最初はあのボトル入りを買って、後からスーパーの特売品をいれてるけど」
「みんなそうするよね、裏洩りしないし、安定感があるから。キッコーマンには悪いけど」
「まだ作られてないということは、未来から来たの?」
「もしかして敵の正体は、未来の札幌市から来たポラリス?」

(つづく)

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